老人ホームで過ごす高齢者にとって、日々の楽しみの一つでもあるおやつですが、メリットとデメリットを併せ持っており、慎重な判断が欠かせません。現場でも判断が分かれており、積極的に活用している場合もあれば、提供を控えている施設もあるようです。
そこで今回は、老人ホームとおやつの関係について、掘り下げて考えていきましょう。
老人ホームでおやつに対する見解が割れている理由
おやつは栄養面や精神的な満足感を考えると有用なのですが、反面、誤嚥した場合のリスクが懸念されます。もちろん、食べ物が喉に詰まってしまうリスクは食事の時にもありますから、それを考えるとおやつだけでも無しにした方が安全性を確保できるわけです。
この点、おやつを出すにしても慎重に気配りを行えばリスクを抑制できるのですが、2013年12月の事件では一審で施設側に有罪判決が下されたこともあり、業界に衝撃が走りました。
この事件ではスタッフの不注意により、施設利用者がおやつを喉に詰まらせ、窒息死した疑いがかけられました。被告となったスタッフは無罪を主張しましたが認められず、とうとう刑事裁判で有罪判決を言い渡されたのです。
後に被告は高裁で逆転無罪を勝ち取り、検察が上告を断念したことで確定しています。しかし、この一審有罪が業界に与えた影響は大きく、当時はおやつの提供をやめたり、メニューをすべて見直したりと対応に追われたそうです。
もちろん、この事件が全てではありませんが、おやつに関して事故があった場合を考えると、消極的な判断を下す施設は珍しくありません。このため、現状でも「おやつ無し」と決めている施設も多々あります。
おやつを取り入れるには、このような側面もあることに留意しながら、検討を進めていくのが大切でしょう。
老人ホームでおやつを出すメリット
施設利用者にとっておやつは、日々の充実度を高めてくれる存在です。特に高齢者になると食事にも気を使う必要があるので、満足度を高めるのは難しい面があります。誤嚥しにくい食材を選んだり、栄養バランスを整えたりと配慮した結果、なんとなく物足りないと感じている方も多々あるでしょう。
しかし、おやつとなると、話は別です。もともと楽しみながら食べるイメージがあるので、ある程度は健康に配慮したメニューであっても高揚感があります。食べやすくて食感が楽しめるものが多いですから、これを一日の楽しみにしている利用者も珍しくありません。
また、栄養摂取の補助に役立つのもメリットです。高齢者になるとどうしても食が細り、必要な栄養を食事だけでは賄いきれないケースが出てきます。食事が億劫になってしまい、なかなか食べてくれない利用者がいて困った経験がある方も多いはずです。
その点、おやつは味をしっかりと付けており、しかも楽しく気軽に食べられるため、足りない分を補う効果が期待できます。豆類を使えばタンパク質、野菜を足せばビタミン類を補えるなど、工夫次第で栄養状態の改善に役立つのです。
加えて、水分不足が心配な時には、ゼリーやフルーツを多用するのも選択肢。脱水症状が心配なのに、水分や食事を中々摂ってくれない状況でも、おやつならしっかりと食べてくれることがあります。後は嚥下訓練にも、おやつは有用です。
トレーニング用のゼリーも販売されていますが、これにこだわる必要はありません。プリンの粘度を調整する他、「ねりきり」などの滑らかな口当たりの菓子も、トレーニングに使えます。美味しくて喉越しがよい品を選べば、利用者の飲み込む力が強まって、食事が楽しくなるわけです。
好まれるおやつとは
老人ホームで好まれるおやつは利用者の嚥下能力にもよりますが、口当たりの滑らかなものが人気です。例えば餡を使った和菓子やプリン、しっとりした生地のケーキなどが挙げられます。逆に、パサパサしたものは喉に張り付いて苦しくなる他、酷いと詰まってしまうリスクもあるので、工夫しましょう。
海外ではドーナツをミルクに浸してフレンチトーストのように焼き上げ、パサつきを抑えて食べる方法が紹介されているので、取り入れてみてはいかがでしょうか。他には意外と、若者向けのお洒落なスイーツも人気があります。
中でもクレープは美味しさもさることながら、作る段階も楽しめます。パフェも好まれる傾向があり、特別な日には取り入れてみたいひと品です。使う食材もフルーツやクリーム、しっとりしたスポンジなど口当たりが良いので安心。
プラスチックのコップを使えば割れて怪我をする危険性が低くなりますし、軽くて持ちやすいのもメリット。盛り付けを工夫すれば見た目も華やかになります。餅や団子類は人気がありますが、喉に詰まる危険性が高いです。
出す時には細心の注意が欠かせません。リスクを下げるために、寒天を混ぜて柔らかくするなど、工夫されています。
食べる時だけじゃなく作る楽しみも
おやつの中には誰でも簡単に作れる、レクリエーションに向いたものが珍しくありません。中でも簡単でバリエーションが楽しめるのが、巻くだけのスイーツです。大福やクレープなどが代表例でしょう。餡子や果物、チョコレートなどなど好きなものを巻いて食べます。
他には、材料を器に盛りつけるだけのスイーツも手軽です。パフェやトライフルはもちろん、プリンも盛り付けを豪華にすると、普段とは違った楽しみ方ができるでしょう。
ここに注意
楽しくて魅力が満載なおやつですが、注意点が幾つかあります。誤嚥などの事故に気を付けるのは当然として、他にも多数のチェックポイントがあるので見ておきましょう。まず、薬との飲み合わせは要注意です。例えば、血圧関係の薬は使う利用者が多いのですが、グレープフルーツとの飲み合わせが良くありません。
もちろん、病気やアレルギーによっても食べられるものは変わってくるため、入念に確認することが大切です。後は健康への影響もあります。甘いものは虫歯になると言われますが、高齢者のリスクはそれだけではありません。
もしも糖分過剰で糖尿病が進むと色々な問題があります。歯周病のケアが困難になったり、認知症のリスクが高まったりしますので、食事との兼ね合いも考えて、栄養バランスの良いおやつを提供したいものです。
安全対策を重視して楽しく食べよう
老人ホームでおやつを出すには、利用者の満足度を高める反面、リスクもあるので安易な決断は避けたいものです。
嚥下能力や健康状態をスタッフ間で共有するなど、充分な安全策を設けるよう工夫しましょう。課題さえ克服できれば栄養バランスの改善に役立つ他、レクリエーションなどを通して大いに楽しめるのは魅力。上手に取り入れて、素敵な老人ホームを作っていきましょう。